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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)2583号 判決 1986年1月13日

本店所在地

東京都中央区日本橋本町一丁目一番地

株式会社イン・マヌエル

右代表者代表取締役

原勉

本籍

福井県福井市志比口二丁目六〇九番地

住居

東京都北区西ヶ原三丁目一九番一五号

会社役員

原勉

昭和七年一二月七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社イン・マヌエルを罰金四〇〇〇万円に処する。

二(1)  被告人原勉を懲役一年六月に処する。

(2)  この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社イン・マヌエル(以下被告会社という。)は、東京都中央区日本橋本町一丁目一番地に本店を置き、繊維製品の製造及び販売を目的とする資本金四八〇〇万円の株式会社であり、被告人原勉(以下被告人という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の顧問税理士であった分離前の相被告人渡邉仁と共謀のうえ、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入及び架空の給料手当を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五五年一〇月一日から同五六年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億一三七〇万八一九一円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五六年一一月三〇日、同都中央区日本橋堀留町二丁目六番九号所在の所轄日本橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二六九六万八〇四五円でこれに対する法人税額が一〇〇三万五〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第一四七六号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八八四六万五八〇〇円と右申告税額との差額七八四三万〇八〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五七年一〇月一日から同五八年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億〇八九〇万六八四二円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五八年一一月三〇日、前記日本橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三三五八万九八三三円でこれに対する法人税額が一二七六万六五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八六三九万九七〇〇円と右申告税額との差額七三六三万三二〇〇円(別紙(三)ほ脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人原勉の

(イ)  当公判廷における供述

(ロ)  検察官に対する昭和六〇年九月六目付及び同月一八日付各供述調書

一  分離前被告人渡邉仁の検察官に対する供述調書二通

一  収税官吏作成の左記調査書

(イ)  売上高調査書

(ロ)  総仕入高調査書

(ハ)  期末商品たな卸高調査書

(ニ)  給料手当調査書

(ホ)  福利厚生費調査書

(ヘ)  保険料調査書

(ト)  旅費交通費調査書

(チ)  接待交際費調査書

(リ)  支払手数料調査書

(ヌ)  見本費調査書

(ル)  受収利息調査書

(ヲ)  価格変動準備金戻入調査書

(ワ)  交際費限度超過額調査書

(カ)  役員賞与調査書

(ヨ)  役員賞与損金不算入調査書

(タ)  有価証券調査書

(レ)  株式保証金調査書

一  検察事務官山田清作成の報告書

一  日本橋税務署長作成の報告書

一  登記官作成の商業登記簿謄本二通

判示第一の事実につき

一  被告人原勉の検察官に対する昭和六〇年九月八日付供述調書

一  収税官吏作成の左記調査書

(イ)  租税公課調査書

(ロ)  支払利息調査書

(ハ)  価格変動準備金繰入調査書

(ニ)  事業税認定損調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六〇年押第一四七六号の1)

判示第二の事実につき

一  被告人原勉の検察官に対する昭和六〇年九月九日付供述調書

一  収税官吏作成の雑収入調査書及び価格変動準備金積立超過等調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の2)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示各所為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状によりそれぞれ一五九条二項を適用し、右は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項によりそれぞれの罪につき定めた罰金の合算額以下において被告会社を罰金四〇〇〇万円に処する。

被告人原の判示各所為は、いずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状を考慮し同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、繊維製品の製造・販売を目的とし、主として婦人服地を染色加工して婦人服製造販売業者に卸売りすることを業としていた被告会社において、判示のとおり被告人原が顧問税理士と共謀のうえ、二期分合計で一億五二〇〇万円余の法人税を免れたという事案であり、そのほ脱税額が高額であるうえ、税ほ脱率も通算で八六パーセントを超えており、同被告人の納税意識は甚だ低いといわなければならない。

被告人原は、昭和四九年一〇月に資本金五〇〇万円で被告会社を設立し、その後二度に亘る増資を経て昭和五五年九月には資本金を四八〇〇万円としたが、同被告人は、かつて父が経営していた織屋が多額の負債を抱えて倒産したため貧しい生活を送り、その後の勤務先も倒産の危機に瀕したことなどから、不況時に備えて会社の運営資金を確保するため、昭和五三年ころから小規模の架空仕入を計上することにより脱税を行なってきたが、同五四年一一月期の決算の際、被告会社の顧問税理士を委嘱した渡邉仁に架空伝票の中身を追及しないように依頼して脱税工作を見逃がしてもらったのを手始めに、同人に脱税の手段・方法などを相談するうち、同人から積極的に所得秘匿の方法を教示されるようになったところから、両名共謀のうえ、本件各犯行に及んだものである。本件脱税の手段・方法をみると、所得秘匿工作の主なものは、架空仕入の計上(二期合計で二億六七〇〇万円余)、架空給料等の計上(二期合計で四〇〇〇万円余)及び架空支払手数料の計上(五八年九月期における四一〇〇万円余)であるが、このうち、五六年九月期の株式会社蝶理からの架空仕入分(七〇〇〇万円)、向尾久男らに対する架空外交員報酬の計上(二期分で七〇〇万円余)及び右架空支払手数料の計上については税理士である渡邉仁の積極的関与にかかるものであるが、その余については、被告人原の発案実行にかかるものであり、架空仕入の計上に際しては、同被告人が仕入先から請求書及び領収書用紙を入手してこれに金額を記入したり、相手方と通謀して約束手形でいったん支払ったのち相手方が振出した約束手形を回収してこれを簿外で取立てるなど巧妙な手段を弄しており、その犯情は軽視し難いものがある。

しかしながら、他面、被告人が本件の如き犯行に及んだ背景には税務にくわしい顧問税理士が、被告人の誘いがあったとはいえ、本件の脱税工作や所得の隠ぺい手段に積極的に関与した事実を見逃がすことはできないのであり、税理士が適正に職務を全うすれば、本件脱税は未然に防上できたか、または少くとも本件の如き多額の脱税事犯には至らなかったであろうと考えられること、被告人は本件犯行による利益のうちから顧問税理士に多額の脱税報酬を支払っていると認められるところ、これらは被告会社の所得計算上損金とみなすべきものではないが、被告会社の現実の所得を構成していないこと、被告人は、本件の捜査及び公判を通じ一貫して犯行を認めており、本件対象年度につき昭和六〇年一月二四日修正申告によりほ脱分の納税義務の存在を認めたうえ、法人税本税、地方税及び附帯税のすべてを完納していること、被告会社の経理体制を改め再犯なきを誓っていること、被告人には昭和三五年業務上横領等の罪により懲役刑に処せられた前科が一件あるのみで、それ以外には前科前歴がないことなど被告人のため斟酌すべき情状も認められるので、これらを総合勘案して主文掲記の刑を量定した。

(求刑 被告会社につき罰金五〇〇〇万円、被告人原につき懲役一年六月)

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 櫻井浩

弁護人 神宮壽雄

(裁判官 小泉祐康)

別紙(一) 修正損益計算書

株式会社 イン・マヌエル

自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

株式会社 イン・マヌエル

自 昭和57年10月1日

至 昭和58年9月30日

<省略>

別紙(三)

ほ脱税額計算書

会社名 株式会社イン・マヌエル

(1) 自 昭和55年10月1日

至 昭和56年9月30日

<省略>

(2) 自 昭和57年10月1日

至 昭和58年9月30日

<省略>

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